2021年10月13日
産経新聞に当社LED付音響装置が掲載されました。
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【安全な横断 音と振動でアシスト】
外出時にさまざまな困難を強いられる視覚障害者。なかでも道路の横断は、最も緊張を強いられる瞬間だ。横断歩道の向こう側にある歩行者信号は遠くて見えにくい。音響式の信号は時間帯によっては無音になっていることもある。これらの課題を解決しようと、信号の色を横断歩道の手前で信号の色を音や振動などで知らせる装置やスマートフォンアプリが登場。国連の持続可能な開発目標(SDGs)がうたう「全ての人に健康と福祉を」に向け、安全な横断の実現を目指した技術開発が続く。
自分の目で
「横断歩道の信号はよく見えない。音が鳴る信号はありがたいけど、鳴らない所は人や車の気配が頼り。人通りが少ない場所は、車が来ていないことを信じて『えい、やあ』と渡るしかない」
視野が狭くなっていく網膜色素変性症を50代後半で患い、今は全盲に近いという大阪市東住吉区の西村登代子さん(65)は話す。日差しや雨、街中にあふれるネオンなどでも信号の見え方は変わるといい、気が抜けない。
視覚障害者の横断を支える信号としては、音響式信号機が一般的。「カッコー、カッコー」「ピヨピヨ」などの音で、信号が青に変わったことを伝える。大阪府内では3月現在で約1620カ所の交差点に設置済みで、視覚障害者にとって心強い装置だ。だが、近隣への騒音に対する配慮から、夜間早朝は音が鳴らない設定にしている信号が多いという。西村さんは「せめて少しでも見えるうちは、自分の目で信号を確かめ、安心して渡りたいんです」と力を込める。
課題はコスト
視覚障害者に役立つ装置がつくれないか――。電気設備の部品メーカー、篠原電機(同市北区)は、取引先から横断に苦労する視覚障害者の話を聞いたことをきっかけに製品を企画。2007年「LED付音響装置」を開発した。信号機の関連部品なども手掛けており、その技術を生かした。
ポール型で横断歩道の手前に設置し、至近距離からLEDで信号の色を知らせる。また、高さを約1.2mと低くしたことで、視認性が高まったという。視覚障害で視野が狭くなった人にとって、高い位置にある信号は焦点を合わせにくいためだ。
また、音響式信号機と連動し、信号機からの音をスピーカーで流す。頭頂部が振動する機能もあり、耳の不自由な人が触って青信号かどうかを確かめることもできる。
この装置を設置した「鶴見警察署前交差点」(同市鶴見区)で17年、近畿大と同社が視覚障害者らを対象に実証実験を行った。装置の存在を知らせず横断してもらったところ、7割はなじみのある音響式信号をきっかけに横断。その後、装置の利用方法を知らせると、その割合は逆転した。
視覚障害者にとっては、事前に確認した方法でのみ横断することが安全のために必要だ。装置の役割を知り、安心したことで利用が増えたという。西村さんは「すぐ近くで見られる『信号』は便利」と話す。
また、篠原電機によると、装置が設置された府内の交差点では、交通事故の発生件数が減少した場所もあるという。
ただ、現時点で府内の導入事例はまだ9カ所。全国でも14カ所にとどまる。府警交通部は「機能性にも優れており、増設も検討はしているが、割高なので簡単ではない」といい、普及にはさらなるコストダウンも求められている。
アプリでも
スマートトする試みも始まった。
日本信号(東京都)が開発したスマホアプリ「信GO!」は、専用の通信機器が整備された信号機に近づくと、近距離無線通信「Bluetooth」を通じて信号の色を音声で伝えてくれる。青信号を延長で
きる白い押しボタン箱がある場所では、スマホ画面で延長操作も可能だ。
日本信号によると、19年度からの2年間に、東北、関東、中部などの計約140カ所で、アプリに対応する通信機器が設置された。21年度はさらに約220カ所で設置される予定だ。大阪でも導入される見込みで「まずは障害者用施設や支援学校周辺の交差点などを想定している」(府警交通部)という。
ただ、高齢者などでスマホの操作を苦手とする人も少なくないとみられる他、「右手で白杖、左手でスマホを持つと両手がふさがってしまう」と不安の声もある。
交通の福祉政策などに詳しい近畿大の柳原崇男准教授は「真っすぐ横断することが難しい全盲の人向けには、横断歩道上に設けた突起で誘導する『エスコートゾーン』の整備も望ましい」と、信号関連の設備だけでなく、路面も含めた総合的なインフラ整備の必要性を指摘する。
さらなる支援が求められる視覚障害者の道路横断。篠原電機・社会貢献推進室の兼崎暁美さんは「SDGsに向け、横断歩道を渡る視覚障害者らの困難さ、それを解決するための試みを広く知ってもらいたい」と話す。(北村博子) |